藍(lán)色に金魚(yú)と水草をあしらった浴衣姿の少女が、小走りに駆け寄ってくる。
「ごっめーん?！?BR> 「おい、遅いぞ?！?BR> 彼女を待っていたらしい少年が、少し不満げに言葉を返す。
時(shí)刻は、既に夕刻から、夜へと移ろうとしている。
晝の暑苦しかった空気も、次第に爽やかさを帯びた風(fēng)が混じり始めていた。
「ごめんごめん、うちのお婆ちゃん，和服にはうるさくて?！?BR> 申し訳なさそうに、少女は呟く。
浩一と裕子。
2人は、互いの両親が，親戚同然のつき合いだったこともあり、小學(xué)校に入る前、そして入った後も，兄妹のように遊んできた間柄だった。
しかし、學(xué)區(qū)制の問(wèn)題で、中學(xué)は、別々になり、また、この頃，両親の方も仕事が忙しかったり休みが合わなかったりと，両家は、少しずつ疎遠(yuǎn)になっていたせいもあって、2人が會(huì)う機(jī)會(huì)は、大幅に削られることになった。
また、中學(xué)生となれば、必要以上に異性を意識(shí)してしまう年頃でもある。
意識(shí)的にも無(wú)意識(shí)的も，2人は、互いに、相手に避けるような行動(dòng)ばかり取っていた。
そして、高校の入學(xué)，2人は、再會(huì)した。
同じクラスとして。
特に親しかった友人が、他の高校やクラスにいってしまったこともあって、知っている人間が、周?chē)欷摔い胜い妊预π募?xì)さからか，好きとかキライといういう以前に、2人は、なにかにつけ、一緒に行動(dòng)することが多くなった。
高校生活にも慣れ、新しい友人が出來(lái)た頃には、2人は、互いの存在が自分に不可欠なものになっていることに気づいた。
特にプロポーズをしたわけでもないが、いつのまにやら、2人は、誰(shuí)から見(jiàn)ても、戀人同士以外の何者でもなくなっていた。
もっとも、當(dāng)の本人達(dá)が，それが、「戀愛(ài)感情」であることに気づき、それを受け入れるまで、もう若干の時(shí)間を必要としたが。
最初は、照れやら周?chē)欷文郡浃椁瑲荬摔胜盲郡猡韦?，一度、受け入れてしまえば，自分にとって大切な人がいるという狀態(tài)は、どこか束縛されているようにも関わらず，妙に、心を和ませるものがあった。
今夜の7月の夏祭りに一緒に行くのは，小學(xué)4年の時(shí)以來(lái)実に6年ぶりのことだ。
御神輿や山車(chē)などがでる方の祭りは、8月下旬の別の祭りで、今夜の夏祭りは、その前哨戦とも言える夜の屋臺(tái)の列が中心になるものなのだが，むしろ、高校生である彼らには，その方が、嬉しい。
「あーあ、やっぱり，和服って、髪長(zhǎng)い方がいいよね?！?BR> 自分の前髪を摘んでみながら、裕子は，少し殘念そうに呟く。
浴衣であることを気にしてか、ショートの髪を、彼女は，いつもより多めに前髪をあげて、少し額を出すようにしていた。
可愛(ài)らしいおでこが、浴衣と共に、納涼感を醸し出している。
「やっぱり，浴衣には、長(zhǎng)い髪をアップにしてたほうが情緒あるよね。浩一もそう想うでしょ?！?BR> 「そんなことないって。よく似合ってるよ。」
「ありがと。お世辭でも、嬉しいよ?！?BR> 浩一の言葉に、裕子は、にっこりと笑顔を見(jiàn)せる。
「お世辭じゃないから、安心しろよ?！?BR> 浩一は，少し照れるようにそっぽを向きながら応える。
「浩一?！?BR> 裕子は、しがみつくように、浩一の左腕に自分の腕をまわす。
「おい、まだ暑いんだから、そんなにくっつくなって。」
そう言いながらも，浩一の顔もまた、まんざらではないようだった。
鯛焼きタコ焼きイカ焼き大判焼きお好み焼きべっこう飴リンゴ飴杏飴ワタ飴ラムネ型抜き
金魚(yú)すくいカメすくい水風(fēng)船ヨーヨー射的輪投げお面風(fēng)車(chē)
そして、その間を押し合うようにすれ違っていく人の混雑
ひといきれと喧噪普段なら，鬱陶しいハズのそれも、お祭りの夜には、それこそが、求められているのだ。
2人は、つき合い程度に金魚(yú)すくいをし、ワタ飴をかじり，タコ焼きをぱくつく。
お祭りの持つ獨(dú)特の雰囲気は，人を明るく楽しく開(kāi)放的にしてくれる。
特に買(mǎi)うものが無(wú)くても、屋臺(tái)の列の中を、散策でもするかのように、歩くだけで、なぜか得をした気分になってしまう。
ましてや、戀人同士で，そんな中を歩くとなれば、楽しさ累乗算というところだろう。
浩一と裕子も例外ではない。
意味もなく、屋臺(tái)の列を何往復(fù)もしてしまう。
時(shí)計(jì)は、9時(shí)に差し掛かろうとし、屋臺(tái)の列の中の人も次第にまばらになっていく。
2人は、どちらかというでもなく、帰路を歩み始めた。
互いに、大切な相手と一緒に、年に一度しかない夏の貴重な一夜を過(guò)ごせたことに、満足感を覚えながら，それだけに別れを惜しむように、ゆっくりと歩を進(jìn)めていく。
町內(nèi)の公民館のそばを通ったとき、そのそばの丘の上に小さな燈りが見(jiàn)えた。
「あ、あれ、神社のじゃない？」
裕子は、驚いたように聲をあげた。
「あ、そうだな?！?BR> そう応えながら、浩一は、ゆっくりと、丘の上の燈りを仰ぎ見(jiàn)る。
あの神社に関しては、2人とも，忘れようにも忘れられない思い出がある。
もう、10年近くも前のことだ。
やはり、夏祭りの夜のことだった。
祭りの帰り道、浩一は、裕子を，無(wú)理矢理、神社へと、引っ張り込んだ。
夜中の神社で、裕子を怖がらせてやろう。という子供の発想からだ。
ところが，引っ張り込んだ張本人も，夜中の神社という獨(dú)特な雰囲気に呑まれてしまい、更にタイミング良く裕子が泣き出してしまったことで、2人仲良く、恐怖に泣き出してしまった。
こうなると、もはや、怖さで身動(dòng)き1つ出來(lái)ない。
通行人が，神社から子供の聲が聞こえるということで、屆け出てくれたおかげで、事なきを得たが，あの後，浩一は、こっぴどく叱られることになった。
今となっては、ちょっと恥ずかしいものの，いい思い出だ。
「ね、ね、お祭りなんだし、ちょっと寄っていってみようよ?！?BR> 裕子は、昔のことが懐かしくなったのか，そう提案する。
浩一にしてみても、特に反対する理由はない。
2人は向きを変え、神社へと続く石段を登り始めた。
神社へと続く石段は、照明など無(wú)かったが，満天の星空と，満ちきるまで後數(shù)日という具合の月が照らし出してくれたお陰で，暗闇に慣れた目には，歩くのに支障はない。
慣れない下駄の裕子の歩調(diào)に合わせるようにして，浩一は、緩やかな石段を登る。
下駄が石段を叩く，小さなしかし甲高い音が，石段の左右に広がった竹林の中に響く。
子供の頃は、天にすら屆くかのように高いと想われた石段の上の神社は，意外なほど呆気なく，たどり著いてしまった。
祭りの夜だけに、近所の人が用意してくれたのだろう。
神社の境內(nèi)には、燈明に，御神酒、お供えが添えられていた。
「懐かしいね。この神社，こんなに小さかったっけ」
感慨深そうに，裕子は呟く。
境內(nèi)へ続く階段の埃をはらい、浩一は腰掛ける。
裕子もその隣に腰を下ろした。
「子供の時(shí)の思い出って，忘れられないのに，どこか不鮮明なんだよね?！?BR> 裕子の瞳は、遠(yuǎn)くを見(jiàn)つめるモノに変わり、浩一は、その表情に、心臓が高鳴るのを覚えた。
夏祭り、2人きり，薄暗い神社の境內(nèi)。
シチュエーション的には，かなりオイしい狀況が、彼の前に用意されていた。
（こ、これなら、キスぐらい、いいよな）
そんなことを考えていると、不意に夜空が明るく照らし出された。
數(shù)秒遅れで、ドーンという，腹その底まで響く大音響が。
「あ，花火。」
裕子は，夜空を見(jiàn)上げながら呟く。
尺玉やスターマイン連発が飛び交う本格的な花火は，8月の祭りになるのだが，今夜の花火も，規(guī)模でこそ負(fù)けてはいるものの，見(jiàn)る者の心を奪うだけの壯麗さは十分に備えている。
事実、2人は、境內(nèi)に腰掛けたまま，しばらくの間，空に開(kāi)く，壯大な花に見(jiàn)とれていた。
名殘惜しい気持ちと空気が、2人の間に生まれる。
來(lái)年の夏は，たしかに，また訪(fǎng)れる
しかし、こんな大切な人と一緒に楽しい時(shí)を過(guò)ごせる夏は、もう2度とやってきてはくれないのでは？
それならば、いっそのこと、このまま、別れたくない。
このまま，ずっと一緒にいたい。
期せずして、2人は、同じ事を考えていた。
いきなり、夜が明けたのではないかと錯(cuò)覚しそうなほど，空が、明るく、そして白く照らし出される。
全てが、その中に溶けてしまいそうなほど，強(qiáng)烈な光。
あまりの光の烈しさに，2人は、その意識(shí)さえも、その中に呑み込まれていった。
呑み込まれたかと想ったのは，ほんの數(shù)秒のことだったらしい。
「いやー、今のは、すごかったなあ」
意識(shí)を取り戻し、何という気もなしに、裕子のそう話(huà)しかけようとした浩一は、自分の口から聞こえた聲に、自分の耳を疑った。
いつも聞き慣れた自分の聲ではない。
それよりも、ずっと甲高い、まるで女のコのような聲
花火の音のせいで，聴覚がおかしくなったのでは想い、あわてて、耳に手をやろうとした浩一は、今度は腕から手首までの違和感に気づいた。
自分は著ていたのはTシャツのハズなのに，なぜか、手首辺りにまで布地の感觸があった。
さらに、鳩尾の辺りから腹部にかけて、締め付けられるような圧迫感。
足にまとわりつく布地の感觸は、ジーンズのものではなく，足の親指と人差し指の間には、鼻緒の感觸があった。
「え？」
跳ねるようにして立ち上がると、視線(xiàn)を身體へと向ける。
薄暗闇の中に，神社の蛍光燈と蝋燭で照らし出されたそこには、濃紺のいや、暗闇の中のことなので、実は、青か藍(lán)色なのかもしれないがとにかく、そういう系統(tǒng)の浴衣を、浩一は身に付けていた。
胸から腹にかけては、オレンジ色と思しき帯これが、圧迫感の原因だろう。
更に視線(xiàn)を下に向けると，小さな下駄とその中に収まった小さな足、そして小さな指。
その服裝に、浩一は覚えがあった。
ま、まさか
すぐそばに，人の気配を覚え、浩一は、視線(xiàn)をそちらに向けた。
絶句するのに、3秒とかからなかった。
Tシャツにジーンズ姿の少年が、唖然とした顔で。立ちつくしていた。
そして、その少年の顔は、浩一のものだった。
浩一は、絶句を続けるしかなかった。
まあ無(wú)理はない。
死體が起きあがっても、これだけびっくりできるかは、自信がなかった。
なにしろ、目の前に、自分が立っているのだから。
これで、驚くなという方が，橫暴な話(huà)だ。
浩一が，絶句から抜け出すのに、3分近い時(shí)間を要した。
「お、おまえ、一體、誰(shuí)だ？」
相変わらず甲高い聲だったが，今は、それよりも、目の前にいる自分そっくりな少年の正體が気になった。
「お、おまえって人のこと，おまえなんていう、あんたこそ、誰(shuí)なの？」
浩一そっくりの少年は、上擦った口調(diào)で言い返してくる。
向こうも、こちらのことが分からず、かなり戸惑っているようだった。
しかし、なぜ、語(yǔ)尾が女言葉になっているのだろう？
聲まで、自分そっくりだったため、浩一は、かなり気持ち悪いものを感じていた。
ん、女言葉？今の自分の服裝は浴衣目の前にいる自分の姿
「まさかお前，裕子か？」
自分の姿になった裕子らしき人物に，浩一は、震える口調(diào)で、問(wèn)いかける。
「お前、裕子かって，確かに，あたしは、裕子だけど、それより、あんたこそ誰(shuí)よ！」
間違いない。
その計(jì)算結(jié)果をはじき出した自分自身が、信じられない答えだったが，証拠が揃いすぎている。
「おれ、浩一だよ?！?BR>
「ごっめーん?！?BR> 「おい、遅いぞ?！?BR> 彼女を待っていたらしい少年が、少し不満げに言葉を返す。
時(shí)刻は、既に夕刻から、夜へと移ろうとしている。
晝の暑苦しかった空気も、次第に爽やかさを帯びた風(fēng)が混じり始めていた。
「ごめんごめん、うちのお婆ちゃん，和服にはうるさくて?！?BR> 申し訳なさそうに、少女は呟く。
浩一と裕子。
2人は、互いの両親が，親戚同然のつき合いだったこともあり、小學(xué)校に入る前、そして入った後も，兄妹のように遊んできた間柄だった。
しかし、學(xué)區(qū)制の問(wèn)題で、中學(xué)は、別々になり、また、この頃，両親の方も仕事が忙しかったり休みが合わなかったりと，両家は、少しずつ疎遠(yuǎn)になっていたせいもあって、2人が會(huì)う機(jī)會(huì)は、大幅に削られることになった。
また、中學(xué)生となれば、必要以上に異性を意識(shí)してしまう年頃でもある。
意識(shí)的にも無(wú)意識(shí)的も，2人は、互いに、相手に避けるような行動(dòng)ばかり取っていた。
そして、高校の入學(xué)，2人は、再會(huì)した。
同じクラスとして。
特に親しかった友人が、他の高校やクラスにいってしまったこともあって、知っている人間が、周?chē)欷摔い胜い妊预π募?xì)さからか，好きとかキライといういう以前に、2人は、なにかにつけ、一緒に行動(dòng)することが多くなった。
高校生活にも慣れ、新しい友人が出來(lái)た頃には、2人は、互いの存在が自分に不可欠なものになっていることに気づいた。
特にプロポーズをしたわけでもないが、いつのまにやら、2人は、誰(shuí)から見(jiàn)ても、戀人同士以外の何者でもなくなっていた。
もっとも、當(dāng)の本人達(dá)が，それが、「戀愛(ài)感情」であることに気づき、それを受け入れるまで、もう若干の時(shí)間を必要としたが。
最初は、照れやら周?chē)欷文郡浃椁瑲荬摔胜盲郡猡韦?，一度、受け入れてしまえば，自分にとって大切な人がいるという狀態(tài)は、どこか束縛されているようにも関わらず，妙に、心を和ませるものがあった。
今夜の7月の夏祭りに一緒に行くのは，小學(xué)4年の時(shí)以來(lái)実に6年ぶりのことだ。
御神輿や山車(chē)などがでる方の祭りは、8月下旬の別の祭りで、今夜の夏祭りは、その前哨戦とも言える夜の屋臺(tái)の列が中心になるものなのだが，むしろ、高校生である彼らには，その方が、嬉しい。
「あーあ、やっぱり，和服って、髪長(zhǎng)い方がいいよね?！?BR> 自分の前髪を摘んでみながら、裕子は，少し殘念そうに呟く。
浴衣であることを気にしてか、ショートの髪を、彼女は，いつもより多めに前髪をあげて、少し額を出すようにしていた。
可愛(ài)らしいおでこが、浴衣と共に、納涼感を醸し出している。
「やっぱり，浴衣には、長(zhǎng)い髪をアップにしてたほうが情緒あるよね。浩一もそう想うでしょ?！?BR> 「そんなことないって。よく似合ってるよ。」
「ありがと。お世辭でも、嬉しいよ?！?BR> 浩一の言葉に、裕子は、にっこりと笑顔を見(jiàn)せる。
「お世辭じゃないから、安心しろよ?！?BR> 浩一は，少し照れるようにそっぽを向きながら応える。
「浩一?！?BR> 裕子は、しがみつくように、浩一の左腕に自分の腕をまわす。
「おい、まだ暑いんだから、そんなにくっつくなって。」
そう言いながらも，浩一の顔もまた、まんざらではないようだった。
鯛焼きタコ焼きイカ焼き大判焼きお好み焼きべっこう飴リンゴ飴杏飴ワタ飴ラムネ型抜き
金魚(yú)すくいカメすくい水風(fēng)船ヨーヨー射的輪投げお面風(fēng)車(chē)
そして、その間を押し合うようにすれ違っていく人の混雑
ひといきれと喧噪普段なら，鬱陶しいハズのそれも、お祭りの夜には、それこそが、求められているのだ。
2人は、つき合い程度に金魚(yú)すくいをし、ワタ飴をかじり，タコ焼きをぱくつく。
お祭りの持つ獨(dú)特の雰囲気は，人を明るく楽しく開(kāi)放的にしてくれる。
特に買(mǎi)うものが無(wú)くても、屋臺(tái)の列の中を、散策でもするかのように、歩くだけで、なぜか得をした気分になってしまう。
ましてや、戀人同士で，そんな中を歩くとなれば、楽しさ累乗算というところだろう。
浩一と裕子も例外ではない。
意味もなく、屋臺(tái)の列を何往復(fù)もしてしまう。
時(shí)計(jì)は、9時(shí)に差し掛かろうとし、屋臺(tái)の列の中の人も次第にまばらになっていく。
2人は、どちらかというでもなく、帰路を歩み始めた。
互いに、大切な相手と一緒に、年に一度しかない夏の貴重な一夜を過(guò)ごせたことに、満足感を覚えながら，それだけに別れを惜しむように、ゆっくりと歩を進(jìn)めていく。
町內(nèi)の公民館のそばを通ったとき、そのそばの丘の上に小さな燈りが見(jiàn)えた。
「あ、あれ、神社のじゃない？」
裕子は、驚いたように聲をあげた。
「あ、そうだな?！?BR> そう応えながら、浩一は、ゆっくりと、丘の上の燈りを仰ぎ見(jiàn)る。
あの神社に関しては、2人とも，忘れようにも忘れられない思い出がある。
もう、10年近くも前のことだ。
やはり、夏祭りの夜のことだった。
祭りの帰り道、浩一は、裕子を，無(wú)理矢理、神社へと、引っ張り込んだ。
夜中の神社で、裕子を怖がらせてやろう。という子供の発想からだ。
ところが，引っ張り込んだ張本人も，夜中の神社という獨(dú)特な雰囲気に呑まれてしまい、更にタイミング良く裕子が泣き出してしまったことで、2人仲良く、恐怖に泣き出してしまった。
こうなると、もはや、怖さで身動(dòng)き1つ出來(lái)ない。
通行人が，神社から子供の聲が聞こえるということで、屆け出てくれたおかげで、事なきを得たが，あの後，浩一は、こっぴどく叱られることになった。
今となっては、ちょっと恥ずかしいものの，いい思い出だ。
「ね、ね、お祭りなんだし、ちょっと寄っていってみようよ?！?BR> 裕子は、昔のことが懐かしくなったのか，そう提案する。
浩一にしてみても、特に反対する理由はない。
2人は向きを変え、神社へと続く石段を登り始めた。
神社へと続く石段は、照明など無(wú)かったが，満天の星空と，満ちきるまで後數(shù)日という具合の月が照らし出してくれたお陰で，暗闇に慣れた目には，歩くのに支障はない。
慣れない下駄の裕子の歩調(diào)に合わせるようにして，浩一は、緩やかな石段を登る。
下駄が石段を叩く，小さなしかし甲高い音が，石段の左右に広がった竹林の中に響く。
子供の頃は、天にすら屆くかのように高いと想われた石段の上の神社は，意外なほど呆気なく，たどり著いてしまった。
祭りの夜だけに、近所の人が用意してくれたのだろう。
神社の境內(nèi)には、燈明に，御神酒、お供えが添えられていた。
「懐かしいね。この神社，こんなに小さかったっけ」
感慨深そうに，裕子は呟く。
境內(nèi)へ続く階段の埃をはらい、浩一は腰掛ける。
裕子もその隣に腰を下ろした。
「子供の時(shí)の思い出って，忘れられないのに，どこか不鮮明なんだよね?！?BR> 裕子の瞳は、遠(yuǎn)くを見(jiàn)つめるモノに変わり、浩一は、その表情に、心臓が高鳴るのを覚えた。
夏祭り、2人きり，薄暗い神社の境內(nèi)。
シチュエーション的には，かなりオイしい狀況が、彼の前に用意されていた。
（こ、これなら、キスぐらい、いいよな）
そんなことを考えていると、不意に夜空が明るく照らし出された。
數(shù)秒遅れで、ドーンという，腹その底まで響く大音響が。
「あ，花火。」
裕子は，夜空を見(jiàn)上げながら呟く。
尺玉やスターマイン連発が飛び交う本格的な花火は，8月の祭りになるのだが，今夜の花火も，規(guī)模でこそ負(fù)けてはいるものの，見(jiàn)る者の心を奪うだけの壯麗さは十分に備えている。
事実、2人は、境內(nèi)に腰掛けたまま，しばらくの間，空に開(kāi)く，壯大な花に見(jiàn)とれていた。
名殘惜しい気持ちと空気が、2人の間に生まれる。
來(lái)年の夏は，たしかに，また訪(fǎng)れる
しかし、こんな大切な人と一緒に楽しい時(shí)を過(guò)ごせる夏は、もう2度とやってきてはくれないのでは？
それならば、いっそのこと、このまま、別れたくない。
このまま，ずっと一緒にいたい。
期せずして、2人は、同じ事を考えていた。
いきなり、夜が明けたのではないかと錯(cuò)覚しそうなほど，空が、明るく、そして白く照らし出される。
全てが、その中に溶けてしまいそうなほど，強(qiáng)烈な光。
あまりの光の烈しさに，2人は、その意識(shí)さえも、その中に呑み込まれていった。
呑み込まれたかと想ったのは，ほんの數(shù)秒のことだったらしい。
「いやー、今のは、すごかったなあ」
意識(shí)を取り戻し、何という気もなしに、裕子のそう話(huà)しかけようとした浩一は、自分の口から聞こえた聲に、自分の耳を疑った。
いつも聞き慣れた自分の聲ではない。
それよりも、ずっと甲高い、まるで女のコのような聲
花火の音のせいで，聴覚がおかしくなったのでは想い、あわてて、耳に手をやろうとした浩一は、今度は腕から手首までの違和感に気づいた。
自分は著ていたのはTシャツのハズなのに，なぜか、手首辺りにまで布地の感觸があった。
さらに、鳩尾の辺りから腹部にかけて、締め付けられるような圧迫感。
足にまとわりつく布地の感觸は、ジーンズのものではなく，足の親指と人差し指の間には、鼻緒の感觸があった。
「え？」
跳ねるようにして立ち上がると、視線(xiàn)を身體へと向ける。
薄暗闇の中に，神社の蛍光燈と蝋燭で照らし出されたそこには、濃紺のいや、暗闇の中のことなので、実は、青か藍(lán)色なのかもしれないがとにかく、そういう系統(tǒng)の浴衣を、浩一は身に付けていた。
胸から腹にかけては、オレンジ色と思しき帯これが、圧迫感の原因だろう。
更に視線(xiàn)を下に向けると，小さな下駄とその中に収まった小さな足、そして小さな指。
その服裝に、浩一は覚えがあった。
ま、まさか
すぐそばに，人の気配を覚え、浩一は、視線(xiàn)をそちらに向けた。
絶句するのに、3秒とかからなかった。
Tシャツにジーンズ姿の少年が、唖然とした顔で。立ちつくしていた。
そして、その少年の顔は、浩一のものだった。
浩一は、絶句を続けるしかなかった。
まあ無(wú)理はない。
死體が起きあがっても、これだけびっくりできるかは、自信がなかった。
なにしろ、目の前に、自分が立っているのだから。
これで、驚くなという方が，橫暴な話(huà)だ。
浩一が，絶句から抜け出すのに、3分近い時(shí)間を要した。
「お、おまえ、一體、誰(shuí)だ？」
相変わらず甲高い聲だったが，今は、それよりも、目の前にいる自分そっくりな少年の正體が気になった。
「お、おまえって人のこと，おまえなんていう、あんたこそ、誰(shuí)なの？」
浩一そっくりの少年は、上擦った口調(diào)で言い返してくる。
向こうも、こちらのことが分からず、かなり戸惑っているようだった。
しかし、なぜ、語(yǔ)尾が女言葉になっているのだろう？
聲まで、自分そっくりだったため、浩一は、かなり気持ち悪いものを感じていた。
ん、女言葉？今の自分の服裝は浴衣目の前にいる自分の姿
「まさかお前，裕子か？」
自分の姿になった裕子らしき人物に，浩一は、震える口調(diào)で、問(wèn)いかける。
「お前、裕子かって，確かに，あたしは、裕子だけど、それより、あんたこそ誰(shuí)よ！」
間違いない。
その計(jì)算結(jié)果をはじき出した自分自身が、信じられない答えだったが，証拠が揃いすぎている。
「おれ、浩一だよ?！?BR>